どうすれば個人で40億円の商売が出来るのか?〜「砂のクロニクル(上)」船戸与一
2016/10/09
おはようございます。ケンタ(@kentasakako)です。
昨今ニュースを見ていると「イスラム国」についての報道が多いのですが、僕は中東、特にイラクやシリアなどの国についてあまり疎いのがコンプレックスになっています。
そういう知識も小説からインポートすると吸収も早いですよ。
ということで、今回は「砂のクロニクル」という小説をご紹介します。
僕は「船戸作品」にシビレている。
のっけから脱線しますが、僕は作家としての船戸与一さんが大好きです。
何だろう?
センテンスの選択方法が半端なく「独特」なんですよね。
例えば、この作品にはそれぞれの章で小見出しをつけているのですが、それがまた通好みなんですよ。
最初の小見出しがこちらです。
「飾り棚のうえの暦に関する舌足らずな注釈」
これ、分かります?笑
それ以降の小見出しは以下のように続きます。
「序の奏・ペルシャ密売使・狂おしく粉雪が」
「第一の奏・夜の扉が開かれた」
「第二の奏・月光の移動命令・陽光の眩しさ」
「第三の奏・グルジアからの女誑し」
「第四の奏・月影、秘かに揺れて」
分かりますでしょうか、このゾクゾク感。
もう、ボキャブラリーの範疇が一般人の枠からぶっとんでいる感じすらします。
僕もこんな言葉を操るようになりたい……。
クルド人とかイスラム教についてどれだけ知っていますか?
この作品は、ざっくり言うと、ハジという日本人の武器商人の話です。
また、この作品には中東時勢の基本がちりばめられているので、下手な歴史教科書を読むよりも頭にスッと入ります。
例えば、クルド人について以下のような記述があります。
「わしはクルド人という民族自体に同情してる。2000万もの人間がいながら、国土さえ持てないんだ。いつもそのときそのときの地政学に利用されてる。」
クルド人というのは国家を持たない民族なのですね。これはユダヤ人と同じような感覚かもしれませんが、ニュアンスは若干違うかもしれません。
それにしても、東京都(約1200万人)と千葉県(約600万人)を合わせた人口以上のクルド人が「国家」がない状態で生活しているのですね。
これは僕も全く知りませんでした。
また、イスラム教については以下のような記述があります。
タキアとはイスラム教の中の少数派であるシーア派が多数派のスンニ派に対して編み出された一種の保身術だった。
それは偽装による自己防衛で、時と場合によっては嘘も許される、相手をだまして危機を逃れてもいいというシーア派独特の宗教原則だった。
このような知識は決して学校では教えてくれないのです。
新聞の国際面を「シーア派」と「スンニ派」の区別も知らずに読んでも、全く理解が追い付かないですよね。
本から学ぶべきことは多大にあるのです。
ハジの交渉術を僕たちは学ぶべきなのだろう。
さらに本書で参考になるのは、ハジの交渉術です。
彼はクルド人2人に「小型拳銃を2万挺、輸送してくれ」という商売をふっかけられます。その提示価格は1挺につき1000ポンドだったのですが、ハジはこう返答するのです。
「おれは商売となりゃ、妙な駆け引きはやらねぇ。そのときそのときの相場どおり動く。確かに新品のガリル自動小銃は1000ポンド以下で買える。しかし、2万挺のガリル自動小銃をどうやってマハバードに運びこむんだ?非合法な商品を大量にイラン国内に持ち込み、しかも戒厳令下も同然のマハバードに輸送するんだ。秘密の保持やら協力者に対する危険手当やら費用がかさむのは当然だろう?この金額が受け入れられないと言うのなら、こっちは動きようがない」
駆け引きの主導権を握るということはまさにこういう事ですね。
そして、ハジは更にこう追加します。
「支払い方法だがな、前金としてまず2000万ポンドをもらう。現金でだ。それからAKMをイランに陸揚げした時点で2000万ポンド。これはロンドンのおれの銀行口座に振り込んでくれ。残りはすべてをマハバードで引き渡したあとで受け取る。これも銀行口座に振り込んでもらうことになる。」
決済の指定というのはビジネスにおいてとても重要となります。しかも、ハジのようなアンダーグラウンドな商売では。
て、ていうか日本円にして約40億円の商売ですよ。これを個人の武器商人が行うんですよ。フィクションでありながら、すごくないですか?
そして、最後にハジの捨て台詞が格好良すぎるのでこれをシェアして上巻の紹介を締めたいと思います。
「その鞄の中には銃器購入の前金として100万ポンドが入っているんだろう?だが説明したとおりだ、桁がひとつ違う。そいつを持って引きあげてくれ。おれの言い値が受け入れられるかどうかはおまえらじゃ判断がつかないだろう。責任者と相談して、もう一度、おれのところに連絡するがいい」
かっこよすぎ!
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