読書日記(16)「降臨の群れ」船戸与一
僕が船戸与一さんの本を読み始めたのは、「新宿・夏の死」という短編がきっかけでした。そこから、船戸作品の虜(とりこ)になったのです。
船戸作品は、あらゆる国際的問題、特に裏取引(武器商人や密輸関係)がテーマとなっていることが多いですが、今回紹介する「降臨の群れ」は、インドネシアのアンボン島が背景となった「難民ビジネス」に関する小説です。
たしかにインドネシアは、宗教や民族などダイバーシティ(多様性)のすすんだ国かもしれませんが、「そもそも多様性って何?」ということを考えさせられました。
殺し屋のドランが発する言葉にちょっとした船戸節が現れています。
グローバリズムってぇのは何だかんだと言っても結局、アメリカの世界制覇だ。金銭を持ってるやつが好き放題するってことだ。その結果、産み出されるのは大量の難民だよ。今はイスラム圏からの難民が多い。
しかし、今後、インドとパキスタンがどうなるかわからねえし、アフリカも北朝鮮も大量難民の産地となる。
(P187)
生粋の日本人は決してこんな感覚持てないですよね。それとも僕だけかしら?「難民」という言葉の重みが、リアルに伝わります。
更に、主人公の浩平の心境をこう綴っています。
それにしても、シャキブ・サスチオンやゴールデンドラゴン・ホテルに押しかけてきたサイラス・ディサフという若者のあのひたむきさはいったい何なのだろう?ロジャー・マッケイやマジッド・アムナンのあの必死さはどこから生まれるのだろう?
浩平には、宗教や職務に命を懸けるという心情が到底理解できなかった。想えば、これまでじぶんはぼんやりと生き続けてきた。
いや、自分だけではないはずだ。
ほとんどの日本人が狂おしいほどの情熱を傾ける対象を発見できずにだらだらと生きている。
~略~
今日性こそ問題なのだろう。個々の目標はきわめて私的でちっぽけだ。裏切りですらがちまちましている。
それは現在の日本で育った人間のいわば宿命だと思う。
「ほとんどの日本人が狂おしいほどの情熱を傾ける対象を発見できずにだらだらと生きている。」
「個々の目標はきわめて私的でちっぽけだ。」
あー、刺さる。
僕の遂行している「スタバ旅」なんてきわめて私的でちっぽけです。
この言葉が刺さった人は、船戸作品を一度手に取ってみてはいかがでしょうか?
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